飯豊山(2105m

飯豊山  (1976.8.9〜11 夜行&山小屋素泊まり)単独行

 私がこの山に興味を持ち始めたのは、南アルプス南部を単独縦走したとき素泊まり小屋の酔った同宿者が「飯豊山は良い山だよ」と繰り返し私に話してくれたときからです。
また前年 後立山連峰を縦走したときの北アルプスの混雑に少し嫌気がさして東北の誰もいない静かな山を歩いて見たいと言う心境にもなっていました。

 当時はまだ飯豊山については山の本等での紹介記事も少なく周りの人でもこの山へ登った人がいませんでしたので、
果たしてどのような山なのか、素晴らしい山なのか期待外れの山なのか 行って見てのお楽しみとなりました。

 標高2000mそこそこなのにアプローチが長いうえに登山口までトラックを予約しなければならない。
また山小屋が少なくしかも無人小屋が多かったので不安一杯でした。

それでも初めての東北の山への挑戦ということで、せっかく行くのだから出来るだけ多くの山を登ろうと
飯豊本山・御西岳・大日岳・烏帽子岳・北股岳・門内岳の縦走という3泊4日の計画を立てました。

<大日杉の登山口へはトラックで>
 出かける前日の天気予報では、日本海に低気圧と前線が停滞していて東北地方には大雨注意報が出ていましたが、
山へ登るときはいつも雨に会う、行って見なければ分からない、歩いているうちに晴れる場合が多い、
そして会社の休みはこの日しかない と天候悪化にも拘わらずとにかく出かけることにしました。

 お盆休みに入った初日の夜に上野からの夜行。帰省客の混雑が予想されるので22時45分発でしたが2時間前に上野に着きました。
ところが混雑は全くなし。電車が入線してきても誰も乗らない。ボックス席に一人。全くの予想外でした。
まもなく発車しましたが、ボックスに一人居るか居ないかのガラ空き。

向かい側のボックス席には若い女性が一人で荷物も持たず普通の格好で寝始めています。
宇都宮かどこかへの通勤OLだろうと思っていました。眠るためにあれやこれや姿勢を替えてもなかなか眠れず。
そうこうしているうちにまだ暗い米沢に4時半到着。向かい側の若い女性もとうとう米沢まで。
ハンドバックひとつ他に荷物も持たず普通の通勤姿で米沢までの夜行に乗るなんて、どうしたのだろう?

 米沢から米坂線に乗り換え4つ目の駅「羽前小松」に6時到着。空はどんよりとした今にも雨が降り出しそうな曇り空。
8月と言いながらさすがに東北の朝は寒い。登山姿の5〜6人の高校生も一緒に降りる。彼らと一緒に眠い目をしてバスを待つ。
バスは1時間半ほどで終点の中津川・岩倉に。そこからは予約しておいたトラックで登山口の大日杉小屋まで。
先ほどの高校生も一緒。乗り心地の悪い荷台で 朝の山道をガタゴト走る。
雲が厚く垂れ込めて薄暗く周りの景色も寒々としているため、何となく気が滅入って来る。

 大日杉小屋に着いたのが8時半過ぎ。雨が降り始める。それも本格的な雨。同行していた高校生達は小屋に入るがこちらはそのまま登山口へ。
小屋の脇を通る時に窓から「登山届けを出して」と声をかけられる。
書き終ると「雨はこれから強くなるから登るのは止めた方が良いよ」と忠告されるが、従わずに登り始める。
せっかくの貴重な夏休み、一日でも無駄に過ごしたくないという思いと この程度の山大雨になってもたかが知れていると 高をくくってもいました。
南アルプスの荒川三山・赤石岳へ登ったときも初日は雨だったと。

<大日杉小屋から切合小屋まで>
 登り始めは急坂 ザンゲ坂と言うらしい。ザンゲをしながら土砂降りの雨の中を登る。地藏岳までは3時間半のガイドタイム。
雨の樹林の中黙々と登る。雨のため休憩は殆どとらず。地藏岳には2時間半ほどの11時半頃到着。
早く見通しのいい尾根道へ出たくて少し飛ばしたようだ。地藏岳の頂上は風が強く横殴りの激しい雨。嵐だ。
周りは濃霧なのか雨なのか視界は殆ど利かない。雨の中立ったまま軽い昼食をとる。
地図によるとここまでが急な登りであとは急坂はなさそうだと 少しは気持ちが楽になる。

 細い登山道は雨水が勢い良く流れて川になってしまっている。
 地図には水場があちこちに表示してあったのでポリタンには殆ど水を入れてこなかった。
地図に示されている水場を探し「水場は10m下」という看板をようやく見つける。降りる道は滝のように泥水が流れている。
とにかく急坂を10m下って見たが滝のように泥水が流れているだけ。この豪雨ではダメなんだ。ガックリ。
水場がないと思うと尚更に喉が渇いて来る。ビニールの雨具に雨を溜めてそれを飲む。
激しい雨なのですぐに溜まりゴクゴクと飲むが、少しもうまくはない。

 1時間ほどで御坪というところに着くはずなのになかなか標識が出て来ない。
何度も地図を出して確認するが周りの地形が霧と雨のため分からない。
道は雨が川のように流れていて本来の登山道なのか分からなくなって焦って来る。
睡眠不足もあってか意識が朦朧として来る。

 それでも何とかフラフラになって御坪に辿り着いた。ガイドタイム通りの1時間半。あとは今夜泊まる切合小屋まで1時間だ。
頑張って歩き始める。地図では少し行ったところから種蒔山の方を巻いて行くコースと沢を直進するコースとに分かれている。
少しでも早く小屋に着きたいために沢沿いの直進コースを進む。歩き始めてまもなく川沿いの道が流れの速い川になる。
膝くらいの深さの川をジャブジャブ歩くが、これではどうしようもない、
やはり巻き道を行くべきだったと そこから濡れた草に覆われた川岸の急斜面を登る。
3〜4m登ったところでバランスを崩してあっという間に肩から川に転落。慌てて川の中をバシャバシャと起き上がる。
幸い怪我はなかった。ポンチョは破けてしまったので捨てる。場所を替えて再度この濁流から逃れるために急斜面を必死になって登る。
この方向へ進めば巻道に出るはずと必死に草叢を掻き分け登る。

 草叢の中を這いつくばって進むうちにようやく登山道らしい細い踏みつけ道に出る。
その道を進むうちに雨と霧のわずかな隙間に小屋らしきものが見えて来る。助かった。
心身共に疲れて切りずぶ濡れで小屋に駆け込む。到着は3時過ぎ。
登り始めてから休憩らしい休憩をとらずに誰一人とも会わない6時間にわたる土砂降りの中の歩き。もうボロボロ。

 小屋の年とった管理人は「へぇー この雨の中 大日杉から登って来たのかね、それは大変だったね」と。
6時間も土砂降りの中を歩いて来るとやはり雨風のない小屋は天国だ。
着いてすぐに自分の寝場所を確保し ビスケットをウィスキーで流し込みそのまま寝袋に入って横になる。
寒くてガタガタ震えるのと頭が割れるように痛い。熱があるようだ。「うーんうーん」と唸りながらうとうとと眠る。

 夜になって登山者が何人か入って来たようでときどき目を覚ましたが、
その夢うつつの中で管理人のおじいさんが登山者に「この雨の中大日杉から今朝登って来た人がいるんだよ。
ほれ!あそこで横になっている人だよ」と何度も言っているのが聞こえた。その後夜中に何度か目を覚ましたが何とか眠ることが出来た。

<飯豊本山のみで下山>
 翌朝 雨はやんだが風が強く冷たい。昨夜は何とか眠れたが身体がだるく重い。熱は無いと思うが、動くのが億劫だ。
計画ではこれから飯豊本山を経て御西岳・大日岳・烏帽子岳を登ってカイラギ小屋までだが、自信がない。
カイラギ小屋は無人小屋のようだし。果たして歩き続けられるかどうか不安になって来る。身体がいつもと違って重くだるい。
迷った挙句 縦走を断念する。せっかく遥々やって来たのに残念無念。
身体を壊してはどうしょうもないし、病気や遭難騒ぎを起こし人に迷惑をかける訳には行かない。

 せめて飯豊本山だけには登ろうと荷物を小屋に置きカメラだけを持って6時に飯豊本山へ向かう。
下の写真は小屋を出たところから撮った飯豊本山方面の写真です。
左奥が本山。

 

同じような写真。

 

同じく。

 

朝誰もいない山頂に1時間ほどで着く。雲がところどころにかかっているが 周りの山々はやはり関東の山とは一味違う。
圧倒するような山はないが 静かで奥深い落ち着いた山々だ。残雪が沢や谷沿いに残っていて緑と良いコントラストを作り上げている。
良い山だ。以前南アルプスで聞かされた通りだ。一人で歩くのに最適な山だ。下の写真は、山頂からの烏帽子岳・カイラギ岳・北股岳。

 


その山頂部分のアップ。手前の左が烏帽子岳、右側がカイラギ岳、奥が北股岳。

 

山頂からの本山小屋です。

 

草履塚と種蒔山方面です。草履塚と種蒔山との鞍部に昨夜泊まった切合小屋があります。
昨日苦労した尾根も左端に見えます。

 

山頂でゆっくりと周囲の展望を楽しんで切合小屋に戻る。
ここから最短時間で下山できるコースは、三国岳・地蔵小屋を経由して川入に下りるルートだ。
川入からはバス便がある。9時に小屋を出て下山ルートへ。

 空がすこしづつ明るくなって青空も見えて来る。三国岳へは1時間。三国岳を過ぎた辺りから登山者に会い始める。
昨日は雨で足止めを食って小屋に避難していた人だろうか。

 三国岳を下りる辺りから足の指が痛くなって来る。昨夜靴の中がびしょ濡れだったので新聞紙を詰め込んでおいたのだが、まだ乾いてはいない。
どうもこの靴は相性が良くないようだ。下りになると足指が痛くなる。指の痛さを庇って歩いているうちに今度は膝が痛くなって来る。
下の写真は地蔵小屋付近からの飯豊本山方面。陽射しが出て来て登山日和になって来る。帰らなければならないのが残念だが、仕様がない


 

地蔵小屋からは尾根を下りて川入まで樹林の中の歩き。膝の痛さで2〜3歩歩いては、立ち止まるほどの痛さ。
川入までは2時間のガイドタイムだが、3分の2ほどの御沢小屋まで2時間半近くかかってしまう。
あとは急な下りはないが、本数の少ないバスに間に合わせようと焦って痛い足を引きずって歩く。何とかバス発車の10分前に到着。ヤレヤレ。

 後になって振り返ると何もここで焦って家に帰ることはなく飯豊鉱泉があったのだから、ここで一泊して疲れをとってから帰っても良かったのだ。
帰ろうとすると寄り道もせずに何が何でもその日のうちに帰ろうとしてしまう。

 東北の初めての山行は、天候にたたられ惨敗でした。
会社のお盆休みも限られていたのでスケジュール通り何が何でもと土砂降りの中を長時間歩き体調を崩してしまい大失敗でした。
最初の本格的な登山の甲斐駒が岳のときも3日間雨に降られましたが、他に登山者がいたので道にも迷うことなく計画通り行けましたが、
飯豊山は誰も登る人はおらず たった一人 道に迷ったのでは?という不安にさいなまれながらの登山が良くなかったようです。
とは言いながら、何はともあれ遭難もせず肺炎等の病気にもならず何とか帰って来れたことがなによりでした。

 この山での失敗に懲りて しばらくの間 山行を休止することになりました。

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